記事の本数も検索順位も伸びていて、社内の報告では成果が出ているように見えるのに、インサイドセールスからは話を聞ける相手が少ないという声が返ってきます。SaaSのマーケティングでは、この食い違いがよく起こります。手を入れたのは記事の本数ではなく、誰に向けてどのページを見せるかという組み立てでした。
検索流入は伸びても商談が増えなかった、SaaS企業のSEO対策の状況
このSaaS企業は、勤怠の打刻と休暇の申請、労働時間の集計をまとめて扱うクラウドのサービスを、従業員が数十名から数百名ほどの企業に提供しています。社員は六十名ほどで、そのうちマーケティングの担当が二名、インサイドセールスが三名、フィールドセールスとカスタマーサクセスがそれぞれ数名という構成です。導入の検討には人事や総務の担当者だけでなく、決裁する経営層も関わるため、問い合わせから契約までには数か月かかります。
検索からの流入は、数年かけて着実に伸びていました。それでも商談の数が動かないという状態が続き、マーケティングの担当者は、どこで流れが止まっているのかを確かめるところから始めることになります。
取り組み前の体制と、それまでのSEO対策の進め方
それまでのSEO対策は、記事を増やすことが中心でした。勤怠管理や労務の周辺で検索されている言葉を洗い出し、外部のライターに依頼して月に数本ずつ公開していきます。記事の本数は三年ほどで二百本を超え、サイトの中で最も多いページの種類になっていました。
担当者が見ていたのは、検索順位と、自然検索からのセッション数です。月次の報告では、上位に入った言葉の数と、前の年の同じ月と比べたセッションの伸びを並べていました。数字は毎月伸びていたため、社内でもSEO対策は順調だと受け止められていました。
記事の企画は、検索されている件数の多さで決めていました。件数が多い言葉から順に扱っていくと、自然と用語の意味を説明する記事が増えていきます。製品の機能や料金に触れる記事は、売り込みに見えることを避ける意図もあって、後回しになりがちでした。
順位とセッションが伸びても横ばいだった商談数
変化が見えなくなったのは、商談の数でした。自然検索からの資料請求は月ごとに増えているのに、インサイドセールスが電話をかけて商談に進む件数は、ほとんど同じところで止まっていました。
インサイドセールスの担当者からは、資料請求の内容が以前と変わってきているという話が出ていました。導入の時期を聞いても未定という返事が多く、勤怠管理の仕組みそのものを調べている段階の相手が増えているという感触です。学生や、競合他社と思われる登録も混ざっていました。
マーケティングの担当者は、報告している数字と、営業が感じている手応えがずれていることに気づきます。セッション数と順位は確かに伸びているのに、その先で何が起きているのかを、誰も数字で説明できない状態でした。
商談が増えなかった原因の見立て
原因を思い込みで決めずに、担当者はGoogle Search Consoleの検索語句と、サイトの中のページの種類、資料請求の後の記録を突き合わせて洗い出すことにしました。ページの種類を、用語解説の記事、機能や料金などの製品のページ、導入事例、その他に分け、それぞれの表示回数とクリック数、その先の資料請求の件数を並べていきます。


並べてみると、流入のほとんどが用語解説の記事に集まっていて、製品のページにはほとんど入られていないことが分かりました。資料請求の件数も、記事からのものが大半を占めています。どこで商談につながらなくなっているのかを、ここから順に見ていきました。
用語解説の記事に偏り、検討中の見込み顧客に届いていなかった流入
検索語句を確かめると、上位に入っていたのは、勤怠管理の制度や労務の用語そのものを調べる言葉でした。制度の名前や計算の方法を知りたい段階の人が読む言葉で、そこに勤怠管理のサービスを選んでいる人が混ざっている割合は高くありません。
こうした言葉で上位に入れば、セッション数は増えます。しかし、読み終えた人がそのまま製品を検討する段階に進むとは限りません。記事の末尾には資料請求の案内を置いていましたが、押す理由が読者の側に無い状態でした。
一方で、サービスを選んでいる段階の人が使う言葉では、ほとんど表示されていませんでした。導入する製品を比べている人は、機能の呼び方や料金の形、連携できる仕組みの名前で調べます。そうした言葉に対応するページが無いか、あっても検索から見つけられる形になっていなかったため、検討段階の人が入ってくる経路が細いままでした。
資料請求だけをゴールにして、インサイドセールスの基準とずれていた導線
サイト側で数えていたゴールは、資料請求のフォームの送信でした。記事の末尾にも、サイドバーにも、同じ資料請求の案内が並んでいます。読者がどの段階にいても、渡される選択肢は同じでした。
ところが、インサイドセールスが商談として扱うかどうかの判断は、別の基準で行われていました。見ていたのは次のような点です。
- 導入を検討している時期があるか
- 勤怠の運用で困っていることがはっきりしているか
- 決裁に関わる人が見えているか
この基準に合う資料請求は、全体の一部にとどまっていました。
マーケティングの側は資料請求の件数で成果を語り、営業の側は商談の件数で成果を語ります。同じ流入を見ているのに、良し悪しの判断が別々になっていたことが、改善の方向を決められなくしていました。
機能や料金、導入事例のページが検索で見つかりにくかった構成
製品のページそのものにも問題がありました。機能のページは、機能の名前を並べた一枚の長いページにまとめられていて、打刻の方法や休暇の申請といった、個別に調べられる単位では分かれていません。検索する人が使う言葉と、ページの単位が合っていない状態です。
料金のページは、プランの表と申し込みの案内だけで構成されていました。金額は書かれているものの、どの規模の会社がどのプランを選ぶのか、初期費用や最低契約期間がどうなっているのかは、問い合わせた後にしか分からない作りです。料金を調べている人ほど検討段階が進んでいることが多いにもかかわらず、その人が知りたいことに答えられていませんでした。
導入事例のページは、掲載の許可を得た企業のものが数件あるだけで、業種や規模で探せる形にはなっていませんでした。自社と近い会社の事例を探しに来た人が、目当ての事例にたどり着けません。検索エンジンから見ても、それぞれの事例が短く、ほかのページと区別しにくい状態でした。
商談から逆算したSaaS企業のSEO対策の方針
原因が見えたところで、担当者は進め方の前提から変えることにしました。記事を増やす速さを競うのではなく、商談の数から逆算して、どのページに誰を呼ぶのかを決める形にします。
この切り替えで難しいのは、これまで報告してきた指標を手放すことでした。順位とセッションは毎月動くため、報告の材料としては便利です。それでも、商談が増えないまま数字だけが伸びる状態を続けても、社内でSEO対策への投資が続かなくなると判断しました。
順位とセッションから商談数と商談化率へ変えた指標
新しく置いた指標は、自然検索から入った人がつくった商談の数と、資料請求のうち商談に進んだ割合です。前者は取り組みの規模を示し、後者は呼んでいる相手が合っているかを示します。月次の報告に並べる数字は、次のように入れ替わりました。
| 取り組み前に見ていた指標 | 取り組み後に置いた指標 |
|---|---|
| 検索順位 | 自然検索から入った人がつくった商談の数 |
| 自然検索からのセッション数 | 資料請求のうち商談に進んだ割合 |
| 資料請求の件数 | 商談になった資料請求の件数 |
セッション数と順位も見ることはやめませんでしたが、位置づけを変えました。商談の数が動いたときに、その手前で何が起きていたのかをたどるための材料として扱い、月次の報告の見出しには置かないようにしています。
報告の形も変えました。ページの種類ごとに、表示回数から資料請求、商談までを一続きで並べ、どの段階で細くなっているかが分かるようにします。用語解説の記事は流入が多くて商談が少ない、料金のページは流入が少なくて商談が多い。この違いが見えるようになったことで、どこに手を入れるかの議論が数字の上でできるようになりました。
解約されにくい顧客の傾向から決めた、商談にしたい見込み顧客の条件
商談の数を追い始めると、次に問題になるのは商談の中身です。数だけを増やそうとすれば、条件の合わない相手を営業に渡すことになり、現場の負担が増えるだけで終わります。
そこで、カスタマーサクセスが持っている情報を使うことにしました。長く使い続けている顧客と、早い時期に解約した顧客の違いを洗い出してもらい、どういう状況の会社であれば自社のサービスが役に立つのかを言葉にします。出てきたのは、拠点が複数あって打刻の方法がそろっていない会社や、就業の規則が複雑で集計に手間がかかっている会社が定着しやすいという傾向でした。
この傾向を、呼びたい見込み顧客の条件として書き出し、マーケティングと営業の両方で共有しました。どの言葉で検索してくる人がその条件に近いのかを考える材料になり、キーワードを選ぶときの物差しにもなっています。
Search ConsoleとGA4を商談データにつないだ計測
指標を変えるには、計測をつなぎ直す必要がありました。Search Consoleでは検索語句と表示回数、クリック数が分かりますが、その先の商談までは追えません。
GA4では、サイトの中の行動を、キーイベントとして記録できます。


このSaaS企業では、資料請求やデモの申し込みのフォームの送信をキーイベントとして記録し、送信のときに、どのページの種類から入ってきたのかが分かる情報を一緒に残すようにしました。あわせて、営業が使っている顧客管理の仕組みの側にも、申し込みの経路を残す欄を設けています。
この二つをつなぐことで、自然検索から入った資料請求が、その後どれだけ商談になったのかを月ごとに数えられるようになりました。個人を特定する情報を扱うため、社内の規程に合わせて、残す項目は経路と申し込みの種類にとどめています。
営業とカスタマーサクセスの声から分け直したキーワード
指標と条件が決まったところで、狙う言葉を洗い直しました。これまでは検索されている件数の多さで選んでいましたが、商談に近い言葉から順に並べ直す作業です。
材料は社内にありました。営業が商談で受ける質問、カスタマーサクセスが導入の初期に説明している内容、問い合わせのフォームに書かれた自由記述。いずれも、検討している人が実際に使った言葉がそのまま残っている記録です。外部の調査を買わなくても、扱うべき言葉の手がかりは社内にそろっていました。難しいのは集めることではなく、集めた言葉を検討の段階ごとに並べ替え、どれを先に扱うかを決めることでした。
検討中の見込み顧客が実際に使っていた言葉の集め方
担当者は、インサイドセールスとフィールドセールスに時間をもらい、商談で必ず聞かれることを書き出してもらいました。出てきたのは、次のような具体的な確認でした。
- 既に使っている給与計算の仕組みとつなげられるか
- 打刻の方法を拠点ごとに変えられるか
- 就業の規則が複雑でも設定できるか
カスタマーサクセスからは、導入の初期につまずきやすい点が挙がりました。運用の設計を誰が決めるのか、既存のデータをどう移すのか。検討の段階で確かめておけば、導入後の行き違いが減るという指摘です。
こうして集めた言葉を、Search Consoleの検索語句と突き合わせました。社内で使っている呼び方と、検索する人が入力する言い方がずれている場合もあり、実際に検索されている形を確かめながら、扱う言葉を決めています。
検討段階と競合の強さで決めた、優先するキーワードと後回しにするキーワード
集めた言葉を、検討の段階で並べ替えました。制度や用語を調べている段階、仕組みの比べ方を調べている段階、具体的な製品を選んでいる段階に分け、それぞれにどのページが対応するのかを整理します。
優先したのは、製品を選んでいる段階の言葉でした。検索されている件数は多くありませんが、呼びたい見込み顧客の条件に近い人が使う言葉です。あわせて、検索結果に並んでいるページの種類も確かめました。比較サイトや大手の製品ページが上位を占めている言葉は、順位を取るまでに時間がかかるため、自社のページで答えられる範囲の言葉から着手しています。
上位を占めているページが何で流入を得ているのかが見えると、そこに正面から挑むかどうかの判断がつけやすくなります。このツールは、指定したキーワードで1ページ目に出ているサイトが実際に獲得している流入キーワードを抜き出すもので、キーワードから調べるモードと、URLを指定して調べるモードがあり、スマートフォンとPCも選べます。サジェストや再検索の語とは取り方が違うため、相手が狙っている言葉のほうから、自社が答えられる範囲を切り出す材料になります。
後回しにしたのは、件数は多いものの検討段階から遠い用語の言葉です。やめるのではなく、既存の記事で対応できているものはそのままにし、新しく作る本数を絞りました。限られた人数で進めるため、手を動かす順番を決めることが、取り組みを続けるための条件でもありました。
商談に近い検討段階のページの作り直し
狙う言葉が決まったので、受け皿になるページに取りかかりました。新しく記事を書くよりも、既にある製品のページを、検討している人が判断に使える形に作り替えることを先にしています。
作り替えるときの基準は、商談で聞かれることに、そのページだけで答えられるかどうかでした。営業が口頭で補っていた説明を、ページの側に移していく作業ともいえます。手を入れる順番は、商談に近いページからにしました。検討している人がたどり着いた先が薄いままでは、前の段階をどれだけ整えても商談にはつながらないためです。
機能ページと料金ページを検索意図に合わせて組み替えたこと
機能のページは、一枚にまとめていたものを、調べられる単位に分けました。打刻の方法、休暇の申請と承認、労働時間の集計、給与計算の仕組みとの連携というように、検討している人が個別に確かめたい単位でページを作ります。それぞれのページでは、どういう運用の会社で使われている機能なのかを先に書き、設定でどこまで変えられるのかを続けました。


料金のページは、金額の表だけで終わらせないようにしました。従業員の人数によって費用がどう変わるのか、初期費用や最低の契約期間があるのか、途中でプランを変えられるのかを書き加えています。問い合わせなければ分からない項目を減らすことが、検討している人にとっての親切であり、営業が受ける最初の質問を減らすことにもつながりました。
どちらのページにも、検討している人がつまずきやすい前提を添えました。自社の勤怠の運用がそのまま移せるのか、移すとしたら何を決めておく必要があるのかという説明です。売り込みの言葉を増やすのではなく、判断に必要な材料をそろえる方向で書き直しています。
導入事例ページを、検討中の見込み顧客が判断に使える形へ整えたこと
導入事例は、掲載の許可を得られている範囲で、内容を厚くしました。会社の規模と業種、導入の前に何に困っていたのか、どの機能をどう設定したのか、導入の後に何が変わったのかを、同じ並びで書いていきます。
事例を探す側の立場で、たどり着ける道も用意しました。業種や従業員の規模から事例を絞れるようにし、機能のページからも関係する事例に進めるようにしています。自社と近い条件の会社がどう使っているのかが分かることは、検討している人にとって強い判断の材料になります。
掲載の許可が得られていない顧客については、社名を出さずに、業種と規模、抱えていた課題の形だけを書く形にしました。許可の範囲を超えて書かないことは、掲載している企業との関係を守るうえでも欠かせない前提です。
生成AIで製品を調べる場面も意識した、結論を先に置く書き方
検討している人が製品を調べる道筋は、検索結果の一覧だけとは限りません。生成AIに質問して概要をつかみ、そこで出てきた製品を改めて調べるという進み方もあります。
生成AIを使うこと自体も、企業の中で急に広がりました。情報処理推進機構の調査では、生成AIを導入していると答えた企業の割合は2025年度で44.0%となり、前の年度から大きく伸びています。業務で日常的に使う道具になれば、製品を調べる場面で使われることも増えていくと考えられます。
そこで、ページの書き方も見直しました。冒頭で、そのページが何について書かれていて、読むと何が分かるのかを短く示し、結論にあたる説明を先に置きます。機能のページであれば、どういう運用の会社に向いているのかを最初に書き、詳細をその後に続ける形です。
この書き方は、生成AIのためだけのものではありません。検討している人が、複数の製品のページを短い時間で見比べることも少なくありません。先に結論が書かれているページのほうが、判断の材料として扱いやすく、比べる段階で残りやすいという考え方で統一しました。
用語解説の記事を商談に近いページへつなげた見直し
製品のページが整ってきたところで、これまで積み上げてきた記事の扱いを決めました。二百本を超える記事をすべて書き直す人手はありません。残すもの、書き直すもの、統合するものに分ける作業から始めています。
記事を減らすことが目的ではなく、記事から先に進める道を作ることが目的でした。読み終えた人が次に何を見ればよいのかが分かる状態を、記事の側に用意していきます。公開してきた記事は、検索から人を呼ぶ入口としては働いていました。その入口を閉じるのではなく、入ってきた人が次に進める先を足すという考え方で整理しています。
既存の記事を、残すもの、書き直すもの、統合するものに分けた基準
分ける基準は、流入があるかどうかと、製品のページにつなげられる内容かどうかの二つに置きました。この二つで、記事を次のように分けています。
- 残す
流入があって製品につなげられる記事です。内部リンクを足して残します。流入はあるものの製品と関係の薄い記事も、そのままにして手を入れません。 - 書き直す
検討段階に近い言葉で書かれているのに、内容が用語の説明で終わっている記事です。勤怠管理の仕組みの比べ方を扱う記事であれば、比べるときの観点を具体的に書き、自社のサービスがどの観点に強いのかまで書き足しました。 - 統合する
同じ言葉を別々の角度から扱っていた記事です。似た内容の記事が複数あると、検索エンジンから見てどれを出すべきかが分かりにくくなるうえ、読む人にとっても違いが分かりません。内容をひとつにまとめ、残したページに転送する処理を入れています。
内部リンクで、記事から機能ページや料金ページへ進める道筋を作ったこと
内部リンクは、記事の末尾にまとめて並べるのではなく、本文の中で関係のある場所に置くようにしました。休暇の申請の話が出てくる段落からは休暇の申請の機能のページへ、費用の話が出てくる段落からは料金のページへというつなぎ方です。
リンクの文言も見直しました。詳しくはこちら、という書き方をやめ、リンク先に何が書かれているのかが分かる言葉にしています。読む人がその先に進むかどうかを判断できることが、押させることよりも大切だと考えたためです。
記事を統合して転送を入れたあとは、本文の中に残った古いリンクが問題になります。このプラグインは、サイトの内部リンクと外部リンクを軽いHEADリクエストで確かめ、404のリンク切れだけでなく301や302の転送、403、サーバーエラーまで状態ごとに出します。結果をTSVで書き出せるので、直す順番を決めて、あとから一括で再チェックする、という進め方ができます。
つなぎ先が無い記事もありました。その場合は、無理にリンクを置かず、記事を読んだ人がもう一段深く調べられる別の記事へつなぐにとどめています。関係の薄いページへのリンクを増やしても、読む人の役には立たないためです。
資料請求で終わらせず商談までつなげた導線と営業との連携
ページと記事を整えたうえで、申し込みの入口と、その後の扱いを見直しました。資料請求の件数を増やすことではなく、商談になる申し込みを増やすことが目的です。
ここは、マーケティングだけでは決められない範囲でした。営業が商談として扱う基準や、受け取った情報をどう使うのかまで含めて、一緒に決める必要があります。マーケティングが呼んできた人を営業に渡して終わりにせず、渡した後に何が起きたのかが戻ってくる形にすることが、見直しの前提になりました。ここを決めないまま入口だけを変えても、件数の増減で議論が止まってしまいます。
検討段階に合わせて資料請求、デモ、相談を出し分けた申し込みの入口
申し込みの入口を、検討の段階に合わせて分けました。ページの種類ごとの置き分けは次のとおりです。
- 用語解説の記事
製品の概要が分かる資料の案内を置きます。 - 機能のページ
実際の画面を見られるデモの申し込みを置きました。 - 料金のページと導入事例
自社の運用で使えるかを相談できる入口を置いています。


入口の名前も、何が起きるのかが分かる言葉にしました。申し込むと誰から何の連絡が来るのか、どれくらいの時間がかかるのかを、フォームの手前に書いています。連絡が来ることが分かったうえで申し込んだ人は、電話に出てもらえる割合も高くなりました。
フォームの項目も見直しています。検討の時期と、今の勤怠の運用で困っていることを書く欄を足し、答えたくない人が離脱しないように任意の項目にしました。書いてもらえた内容は、そのままインサイドセールスの最初の会話の材料になります。
インサイドセールスに渡す情報と、商談の質を確かめる振り返りの仕組み
インサイドセールスに渡す情報も変えました。申し込みの内容だけでなく、その人がサイトの中でどのページを見ていたのかを、ページの種類の単位で渡すようにしています。料金のページと導入事例を見てから申し込んだ人と、用語解説の記事だけを読んで申し込んだ人とでは、最初にかける言葉が変わるためです。
申し込みの前にどのページを見ていたのかは、集計の画面よりも生の記録のほうが早く分かることがあります。このプラグインは、リファラー・URI・ステータスコード・User-Agentを記録し、Cookieで振られたIDで新規と再訪を分け、ボットのアクセスを弾いたうえで期間を切って見られます。営業に渡す前の一手間として、その人がどこから来て何を読んだのかを確かめる用途に向きます。
商談になったかどうかの結果も、マーケティングの側に戻るようにしました。月に一度、両方の担当者が集まり、商談になった申し込みとならなかった申し込みを、入ってきた経路ごとに見ていきます。
この場では、数字の報告よりも、どういう相手だったのかを言葉で共有することに時間を使いました。呼びたい見込み顧客の条件に合っていたのかを確かめ、合っていなければ、どの言葉で入ってきた人だったのかまでたどります。
商談にならなかった流入を毎月見直す改善のサイクル
商談にならなかった申し込みは、記録の上では失敗に見えます。ただ、どの言葉から入ってきた人が商談にならなかったのかが分かれば、次に手を入れる場所が見えてきます。
見直しの結果、扱う言葉を変えた例もありました。制度の名前で検索してくる人は多いものの、その大半は自社の制度を調べている担当者で、製品を探している人ではないと分かった言葉です。そうした言葉に対応する記事は、無理に製品へつなげず、読み物として置いておく扱いに戻しました。
逆に、件数は少ないのに商談になりやすい言葉も見つかりました。既に使っている仕組みとの連携を調べる言葉や、拠点ごとの運用の違いを扱う言葉です。こうした言葉に対応するページを足していくことが、次の月の作業になります。
取り組み後に商談が増えた、SaaS企業のSEO対策の成果の一例
ここで示す数値は、複数の支援経験をもとに再構成したモデルケースの一例で、実在するサイトの実績ではありません。変化を見るときに気をつけたのは、サイト全体の数字だけを追わないことでした。
ページの種類ごとに分けて記録し、前の年の同じ月と比べる形にしています。勤怠管理のサービスは、年度の変わり目や法改正の前後で問い合わせが増えるため、前の月と比べるだけでは取り組みの効果が見えにくいためです。あわせて、記事からの流入と製品のページからの流入も分けて記録しました。
成果が見え始めるまでの期間と、先に動いた指標
取り組みを始めて三か月ほどは、商談の数はほとんど動きませんでした。作り替えた製品のページが検索結果に出てくるまでに時間がかかり、記事の統合で一時的に流入が減った分もあったためです。
先に動いたのは、商談化率のほうでした。申し込みの入口を検討段階に合わせて分けたことで、資料請求の件数そのものは減ったものの、そのうち商談に進む割合が上がっています。件数が減ったときに社内で不安が出ましたが、商談の数が変わっていないことを示して、方針を戻さずに済みました。
半年を過ぎたころから、機能のページと料金のページの表示回数が増え始めます。製品を選んでいる段階の言葉で表示されるようになり、そこからの申し込みが商談につながる割合も、記事からの申し込みより高い状態が続きました。
商談数と商談化率の変化
一年の時点での変化を並べると、次のとおりです。
| 項目(一例) | 変化 |
|---|---|
| 自然検索から入った人がつくった商談の数 | 一年で取り組み前の二倍ほど |
| 資料請求のうち商談に進んだ割合 | 一割台から三割ほど |
| 資料請求の件数 | 一時的に減ったあと取り組み前と同じくらいに戻る |
| 自然検索からのセッション数 | 一時的に前の年を下回る月もあり |
商談に進む割合が上がったのは、入口を分けたことと、フォームで検討の時期を聞くようにしたことで、インサイドセールスが最初の連絡で話を進められる相手が増えたためだと考えられます。セッション数が下がったのは、記事の統合と新規の記事を絞った分です。それでも商談の数が伸びていたため、社内での説明に困ることはありませんでした。見る指標を変えていたことが、ここで効いています。
商談が増えた要因として効いたこと
この事例を振り返ると、商談を動かしたのは、呼ぶ相手を絞ったことと、検討している人が判断に使えるページを用意したことでした。どちらも派手な施策ではありませんが、流入の質を変えたという点で影響が大きかったと考えています。
呼ぶ相手を絞れたのは、指標を商談の側に置き直したからです。資料請求の件数で判断していたときには見えなかった、経路ごとの差が見えるようになり、手を入れる場所を数字で選べるようになりました。
同じ流れで、営業とカスタマーサクセスの言葉を材料にしたことも効いています。検討している人が実際に使う言葉は社内に残っていて、それを拾い上げるだけで、狙う言葉の精度が上がりました。新しい道具を入れる前に、社内にある記録を使い切ることが先だったといえます。
一方で、効果が薄かった取り組みもあります。検索されている件数の多い用語の記事を増やす作業は、セッション数こそ伸びたものの、商談にはつながりませんでした。記事の末尾に置く資料請求の案内の文言を何度も変える作業も、読者の検討段階が合っていない状態では、違いがほとんど出ませんでした。
振り返ると、順番にも意味がありました。製品のページを先に整えたため、そのあとに記事から内部リンクでつないだときに、進んだ先で読む人の疑問に答えられる状態になっていました。逆の順番で進めていたら、つないだ先のページが薄いまま、離脱を増やすことになっていたはずです。
もう一つ挙げるとすれば、件数が下がる時期をあらかじめ見込んでおいたことです。記事を統合し、申し込みの入口を分ければ、資料請求の件数は一度減ります。減ることを先に伝えておいたかどうかが、その時期に社内の合意を保てるかどうかを分けます。
同じ課題を抱えるSaaS企業の担当者が最初に着手すること
同じように、流入は増えているのに商談が増えないという状態にある場合、どこから確かめればよいのかを整理しておきます。どれも、大きな改修を決める前に分かることばかりです。
人数の限られた体制でも進められるように、着手の順番も含めて書いておきます。すべてを同時に変えようとすると、どれも中途半端になりやすいためです。担当が一人か二人という体制であれば、手を動かす範囲を絞り、効果を確かめてから次に進むほうが続きます。確かめる順番を決めておくと、社内に説明するときの材料も自然にそろっていきます。
最初に確かめる、商談数と営業との基準
最初に確かめたいのは、自然検索から入った人が、実際にいくつの商談になっているかです。資料請求の件数ではなく、その先の数字を月ごとに出せる状態になっているかを見ます。出せないのであれば、計測をつなぐところが最初の作業になります。
あわせて、営業が商談として扱う基準を聞いておきます。どういう条件がそろえば商談として扱うのかを言葉で確かめ、マーケティングの側で数えているゴールとどれだけずれているかを見ます。このずれが大きいほど、流入を増やしても商談は増えません。
もう一つ確かめたいのは、長く使い続けている顧客の傾向です。カスタマーサクセスが持っている情報から、どういう状況の会社に自社のサービスが向いているのかを言葉にしておくと、狙う言葉を選ぶときの物差しになります。
少人数の体制でも続けられる着手の順番
着手する順番は、商談に近いところから前へさかのぼる形が進めやすくなります。
- STEP 1
製品のページを整える
商談で聞かれることに、そのページだけで答えられる形に直します。既にあるページに手を入れる作業なので、新しく書くよりも早く、効果も確かめやすい範囲です。
- STEP 2
申し込みの入口を分ける
フォームを増やすというより、どのページからどの入口に進んでもらうのかを決める作業です。ここまでで、既にある流入から商談になる割合が変わります。
- STEP 3
記事を書き足す
商談になりやすい言葉が見えてきてから書くほうが、限られた本数を有効に使えます。毎月の振り返りで、商談にならなかった流入を見直す時間を確保しておくと、次に書くものが自然と決まっていきます。
まとめ
このSaaS企業は、記事を増やす方向ではなく、商談から逆算して見る指標とページの作りを組み替えることで、商談の数と商談化率を伸ばしていきました。
取り組みの中心は、指標を商談の側に置き直したこと、営業とカスタマーサクセスの言葉から狙うキーワードを選び直したこと、機能と料金と導入事例のページを検討している人が判断に使える形に整えたこと、そして申し込みの入口を検討段階に合わせて分けたことでした。
成果が数字に表れるまでには時間がかかり、途中で資料請求の件数やセッション数が下がる時期もありました。見る指標を先に変えていたことが、その時期に方針を戻さずに済んだ理由です。自社に置き換えるなら、自然検索から入った人がいくつの商談になっているかと、営業が商談として扱う基準の二つから確かめてみてください。流入の量ではなく、誰に来てもらうかを決めることが、商談の数を動かす近道になります。







